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vol.11 店舗開発

人はお菓子を買いに行くとき「お菓子」そのものだけでどこのお店に行くかを判断しているのではない。実は、建物・照明・ショーケース・ディスプレイなど、お菓子以外のお菓子を取り囲む様々な要素がお菓子やお店の印象を大きく左右する。それらの要素をトータルデザインし「売れる店作り」、「感動する店作り」を行い洋菓子業界の中でも高い評価を得ているのが神田美穂さんである。 今回は最近手がけた茨城県の洋菓子店サンタムール(2007年9月にオープン)のオープン前にお話を伺ってきた。


今まで数多くの店舗デザインを手がけてきましたが、実は最初から今のような仕事をしていたわけではないんです。
大学卒業後、就職したのは地元広島の自動車メーカーでした。事務職として入社しましたが、ある時社内向けの新車のコマーシャルフイルムの制作・編集を任される事になりました。
新車がどんなユーザーをターゲットにしているのか、社内の人に分かりやすく伝えるためのコマーシャルです。

どうやって作ったかというと、まず何十本もの映画のビデオをチェックしてその中から新車のイメージに合う人物を選びだします。次にその人がどんな生活をしているのかを設定します。例えばどんなインテリアが好きで、どんなレジャーを楽しんで…という感じです。そうして一人の人間のライフスタイルを表現したフイルムを作り上げていくのです。
こういう仕事は初めての経験でしたが、やってみるととても楽しかったですね。

店舗開発の仕事と関係がなさそうですが、今思えば「物」を売るのではなく「物を取り囲む雰囲気や空間」を作り出すという点では現在の仕事と根底は一緒だなと感じます。

フイルム制作を通して、ライフスタイルをデザインすることの面白さを感じました。そしてそれを映像で形にするのではなく、実在する空間で作りたいと思いました。もともとインテリアデザインに興味を持っていたこともあり、建築物やインテリアを通してライフスタイルの提案や空間作りをしたいと強く感じるようになったのです。そのため会社を退職しインテリアや建築を勉強するため上京し専門学校で3年間学びました。

卒業後は設計事務所や店舗開発を手掛ける会社に就職し、ホテルやアパレル関係の店舗、大型スーパーや百貨店、飲食店など様々な商業施設のデザイン設計に携わるようになりました。


氏名 神田美穂
年齢 40歳
職業 店舗開発企画

現在に至るまでの仕事について
大学卒業後自動車メーカーに勤める
東京の専門学校で3年間インテリアデザインを学ぶ
設計事務所で、数多くの商業施設等のデザイン設計に携わる
店舗開発の仕事に携わり洋菓子店を手がけるようになる
2001年G-Planningを立ち上げ、多くの洋菓子店や飲食店の店舗開発を行う
G-PlanningのHP
店舗開発の仕事で私がいた部門では、店舗デザインの他に店舗に関わる様々な要素をトータルでデザインしていました。
お店に関わる要素とは、 まずお店の入り口となるファザード、ガーデニング、看板や照明、雑貨のディスプレイ、店内を流れるBGM等々…様々な要素が挙げられます。
ひとつひとつは、ただの物にすぎないかもしれませんが、トータルで見たときにそれらの要素が統一感をもってバランスよく存在すると、ひとつの世界観を作り出すのです。そんなお店にお客様は魅力を感じるのです。

しかしそういう店作りは直接売り上げに反映しづらいこともあり、会社はあまり力を入れていませんでした。そのため仕事をしながら会社の方針と自分のやりたいことに少しずつずれを感じてきました。

ちょうどその頃、洋菓子店の設計を専門にしている方が手がけたお店に伺う機会がありました。 一体どんなお店だろうか?と思いながら訪れてみると、壁は普通のよくあるクロス張り、床はPタイルを使った内装…。残念ながらとりたてて特別何かを感じるものではありませんでした。
正直「え!?こんなの?」とびっくりしました。

お菓子を買いにくる子供達はもちろん大人の方だって、きっとお菓子屋さんに夢をもってワクワクした気持ちで買いに来るはずですよね?それなのに、こんなお店でいいのかな…?と疑問に思いました。
▲ 最近手がけたのが2007年9月にオープンした洋菓子店「サンタムール」

私は、何を売るにしてもお店というのは物理的に「物」を売るのではなく、そのお店で感じる喜びや感動、ワクワクする気持ちといった「体験」をお客さんに与えることが大切だと思っています。 例えるならプレゼントのリボンをほどくときに感じる、「わぁ!何が入っているんだろう。」とワクワクした気持ちでしょうか。
そんな感動体験をお客様に与えられる店作りをしたい。それなら自分で会社を立ち上げて自分の思い描く店作りをやろうとG-Planningという店舗開発の会社を立ち上げたのです。
一人で始めた事業ですがこれまで数多くのデザイン設計や店舗開発を行ってきたので特に不安もありませんでした。
今までおつき合いのあったお客様からの仕事依頼もありましたし、そのお客様が新しいお客様を紹介して下さったり、と有り難いことに今まで営業活動したことがないくらいです。

独立してから主に飲食店関係の仕事が多いですが、その中でも最近では特に洋菓子店の仕事が多いですね。洋菓子業界はネットワークが密なのか、1店手がけるごとに口コミで広がっていくようです。一度お世話になった洋菓子店の方から紹介頂いたり、今まで手がけた洋菓子店を雑誌や業界誌で見てお問い合わせいただくこともあります。そのため自然と洋菓子店のお客様が増えていったという感じですね。

お店の入り口にある門。よく見ると、上の部分には天使の姿と店名「Saint Amour」の装飾が。▲



現在G-Planningでは店舗デザインをはじめ、そしてお店の空間を構成する様々な要素を手がけています。
店舗デザインは一番大きな仕事ですが、仕事の流れはこんな感じです。
最初にオーナーさんとお会いして、どこにどのくらいの規模で建てるのか、どんなお店にしたいのかイメージや要望を伺います。
デザインに関しては、例えば「フランスの田舎風な」とか「落ちついた北欧風」という風にオーナーさんが抱いている大まかなイメージを伺います。

それからプランの作成に取りかかります。デザインについては基本的にまかせていただくことが多いので、お客様のイメージや要望を具体的にどんな形にしていくのか少しずつ固めながらデザインをおこしていきます。

そこで気をつけていることは、デザインが先行してしまわないということです。あくまで洋菓子店の主役は「お菓子」です。お菓子がよりおいしそうに見え、思わず食べたくなるためには、どういう空間を演出するかということを常に念頭に置いてデザインしていきます。

▲イタリアから取り寄せた噴水は当初真っ白だったが、むらができるよう塗装し、周りにはタイルをはめて雰囲気を出した。
私の場合いくつかのプランをたててお客様に提案するのではなく、1つのプランだけ持っていく方針をとっています。
そのかわりそのプランにかける時間と集中力はすごいですよ。ただ単にデザインをおこすのではなく、お店を囲む空間についてストーリーをたてて作り上げていくのです。最初お客様と打ち合わせをしてから、デザインが決定するまで大体1ヶ月半くらいはかかりますね。

デザインができたら、まずは平面図(下のイラストを参考)を見ていただいてどんな雰囲気のお店になるかというイメージを感じてもらいます。 例えば、今回手がけたサンタムールのオーナーさんは「お菓子の村」をイメージしていらっしゃいました。村というからには建物が1塔じゃ寂しいですよね。でも2塔建てるとスタッフの移動が大変になり作業効率が悪くなります。そのためデザインを工夫し実際は1塔ですが2塔に見えるような造りにしました。

それからサンタムールさんは郊外型の新興住宅地のお店ということで、小さなお子さんからご年輩の方まで幅広い年齢層のお客様に長く愛されるスタイルを提案しました。
ヨーロッパ風のスタイルですが、じゃあ実際にヨーロッパのどこかにこういう建物があるかといえば、ないかもしれませんね。
私はどこかに実在している建物をモデルにするのではなく、誰もが思い描く絵本に出てくるようなお菓子の家やカントリースタイルの映画の中にでてきそうな家だったり、皆さんが抱いているヨーロッパの田舎というものをイメージしてデザインしました。
また、建物だけではなくその周りを取り囲む敷地のガーデニングプランも立てます。 敷地の入り口からお店の扉に着くまでの空間は見落とされがちな部分ですがとても重要なポイントなのです。

具体的には、足場はどんな素材を使うのか、 シンボルツリー(シンボルとなる背の高い木)やハーブ、花等をの植物をどういうバランスで配置するのかを考えていきます。またガーデニングには欠かせない小物も配置します。今回は、シンボルツリーに小さな鳥かごをつけたり、アイアンで作った天使、クマ親子の人形など思わず笑みがうかびそうな小物達を使いました。

お客様は緑に囲まれた長いアプローチを通り抜ける過程で、爽やかなハーブの香りを感じ花の美しさに季節を感じながら、「私もこんな素敵な庭をつくりたいわ。」と憧れたり、「この奥にはどんなお店が待っているんだろう…?」と期待や想像を膨らませながらお店の扉まで足を進めていくのです。
入り口からお店の扉へと続くアプローチ。ここを通り抜けていくことでワクワク気分も高まっていく▲

▲お店の庭には、かわいらしいお花や、天使のオブジェ、クマの人形などおとぎ話のような世界が広がっている。


そうしてプランが決定したら、図面にして建築関係の確認や申請をし
ます。それから現場の工事に入ります。
現場の工事はもちろん大工さんにお任せするのですが、図面を渡し使う素材を指定して、「こういう風に作って下さい」と任せきりでは、絶対にいいものはできません。
そのため、工事中は何度も現場に足を運びますね。

例えば、わざと古びた感じを出すために色むらを出してもらったり、温かい印象にするために木材の角を削ったりなど図面からは伝わりづらいことや微妙なニュアンスを直接伝えるようにしています。
▲あたたかい雰囲気を出すために、木材の角をわざと荒く削っている。
建物全体ができてきたら、家具や照明、雑貨やディスプレイなど細かい部分を組み立てて行きます。もちろんお店の空間に合ったものをバランスよくディスプレイする事が大切です。
このようにお店のデザイン・設計の他にファザード(お店までの入り口)、店内に備え付ける家具、雑貨やオブジェなどのディスプレイを行っていますが、その他にも店内を流れるBGM、スタッフのユニフォーム、パッケージデザイン、ロゴデザインの提案企画・制作等 お店に関わる様々なことに携わっています。

そうしてお店が完成した後も、お客様の要望によって季節事のディスプレイやパッケージデザインの企画、制作等も行っていますので、お店の方とつきあいが長くなることが多いですね。つきあいが長いとその分お店の方がどんな方向を目指しているのか分かってくるのでよりよい提案ができるようになります。
シンボルツリーには、鳥かごをディスプレイ。本当に鳥がすみつくかも?という想像も楽しい。▲


仕事のスケジュールは変則的になりますが、特に打ち合わせ等で外出する用事がない場合は大体6時に起床して9時から18時までパソコンを使いデザイン制作をしていることが多いです。
ただ、忙しいときは朝から晩までパソコンの前に座りっぱなしということもあります。

また、顧客先の工事がはじまったら2週間に1回、大体建物の構造が完成したら1週間に1回、細かい仕上げの段階になると3日に1回のペースで現場に向かいます。

休日は基本的に土日に取るようにしていますが、やはりそこも忙しい場合は休日も仕事をします。やはり1人でやっている仕事なのでその時々でフレキシブルに動いています。



自分がデザインしたお店が現実のものとして形になるととても嬉しいですね。
プランを練っている間はあれ使ったらどうだろう?、こうやったらいいんじゃないか?と様々な事を考えますが、お店が完成するとそうやって色々と考えていた事は全部抜きにして、「なんてかわいい家なんだろう!」と感じます。
その瞬間は、他のお客様と同じ視点になれるんです。ですから、自分が手がけたお店でも客の立場になって純粋に楽しめるんですよね。

お店が完成した後も足を運ぶことがありますが、お店に来た子供達が「お菓子の家だー!」と満面の笑顔で走り回っているのを見ると、本当に嬉しいし、成功した!と感じます。
オーナーから「天使をモチーフにした物を使いたい」という依頼があり、▲
アイアンで作った天使の案内やオブジェをオリジナルで制作した。   


本当は自分のお店をもてれば一番いいんですけどね。
何かを売るという訳ではないのですが、お客様と打ち合わせをする際、「ここはこういう風に飾ればもっと素敵ですよ」ということを言葉ではなく、実際見せることができたらもっと伝わりやすいのにな。ということはよく感じますね。

今まで、洋菓子店を多く手がけてきましたが、お店作りの基本は洋菓子店に限らず、パン屋さんでもカフェでも同じだと思います。
それは、お店は物理的に物を売るのではなく、喜びやワクワクした気分といった体験や感動をいつもお客さんに与えるものだということです。これからもお客様が感動体験を得られるお店作りをしていきたいと思います。
▲オープン直前に、焼き菓子専用のショーケース内をディスプレイ。テーマは森。依頼があれば季節事のディスプレイも行う。
現在G-Planningでは、もう一人のスタッフと活動しています。 一つの店舗おいて、一人でトータルにデザインするようにしています。
普通よそのお店では、店舗、ガーデング、ディスプレイ、パッケージなどそれぞれのデザイナーにデザインを依頼することが多いかもしれません。しかし、いいものができたとしても、それぞれのデザイナーが抱くイメージというのは違うので、トータルとして見たときにお店の統一感が欠けてしまいがちです。

私は、空間としての統一感を出すためには一人の人間が全て行うのがベストだと思っています。そのため、スタッフを増やして事業を拡大しようとは思いません。全てに目が行き届く今の状態で続けていきたいと思っています。
 


デザインに関する仕事を目指す方は、様々な作品集や有名な建築家の手がけた作品、インテリアの素敵なお店などを見に行くと思います。
もちろんそれも大切な事だと思いますが、私はすでにできている物を見るのではなくそれを取り巻く空気感を感じる事が一番大切だと思います。

例えば素晴らしい建築物があったとするとそれだけを見るのではなく、一歩ひいてその周りの空気を感じることです。その建物がそこの土地にどう溶け込んでいるのか、目に見えない部分を体験して欲しいなと思います。



 

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