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vol.009 スウィーツプロデューサー 

ここ数年、製菓学校やパティスリーの現場には女性が非常に多くなってきた。しかし、以前は「女は、無理だ!」と言われていた時代もあった。そんな環境の中自分の意志を貫き続けてきた女性がいる。長年お菓子の仕事に携わり経験を重ねてきたその女性は、今スウィーツプロデューサーとして活躍している。


幼い頃は、特にお菓子作りが大好きというほどではありませんでした。自宅でたまにクッキーやホットケーキを作るくらいでした。ただ、よくデパートにあるケーキの実演販売コーナーは好きで、ガラスに張り付いて見入っていましたね。
中学生の頃、伯母がよくレストランに連れていってくれたんですね。それがとても楽しみで喜んでついていってました。何度も行くうちに、食事の最後にでてくるデザートがとても楽しみになっていました。

あるフランス料理店で、ひとつのデザートに出会いました。それは、チュイールをお皿に見立てて、ソルベ(アイス)を盛り、その上に網状の飴のをかけたデザートでした。(「タンバルエリゼ」というデセール)
そのデザートを目にした瞬間、普段では見ることのない美しさにびっくりし、初めて食べたソルベの味わいにとても感動したのです。
それをきっかけに、「お菓子っていいなぁ。」となんとなく感じていたのだと思います。

それから高校生になり、自分の将来について考えたときに「自分の好きなことで、一日中やっていても飽きないことって何だろう…?」と考えたところ、 お菓子・蒔絵(まきえ)・陶芸の3つの選択肢が出てきました。
意外に感じるかもしれませんが、多分ものづくりと言う点ではこの3つには共通点があると思いますよ。

その中で一番身近な存在だったのがお菓子ということもあり、お菓子の道に進もうと決心しました。とはいえ、お菓子の仕事については何も知らなかったので、まずはケーキ屋さんに仕事についての話を聞こうと思いました。
そこで、地元でおいしいと思ったお店5件ほどに電話し、「仕事についてのお話を聞かせて欲しい。」とお願いしました。
そうしたところ、反応は厳しいものでしたね。

電話した時点で「女は無理だからやめろ。」と言われたところもありましたよ。実際話を聞いてくれたところでも、「どうせ女は無理なんだから、この世界は趣味にしておけ。」、「途中でやめたら(お店に)迷惑になるからやめろ。」という感じで反対されました。

ほとんどのお店がそんな反応でしたが、1件だけ「そんなにやりたいなら応援するよ。」と言って下さり、そのお店でお手伝いをさせてもらうことになりました。
そのお店では、お菓子の販売や製造を経験しました。アルバイトなので、リンゴの皮をむいたり、タルトにチョコを塗ったりといった補助的なことが中心でした。


氏名 横井 淳子
年齢 37歳
職業 スウィーツプロデューサー

18才
20才
東京製菓専門学校でお菓子を学ぶ
20〜
23才
ピュイ・ダムールに入社
23〜
26才
クレモンフェランで修行
25才 タイユバン・ロブションの製菓部門でオープニングスタッフを務める
26〜
30才
ザ・ジョージアン・クラブの立ち上げ当初から製菓長を務める
30才 ラ・フーガスでパンの勉強をしながら、様々なオープニングのヘルプを行う
31才 クレッセントの製菓長を務める
31〜
36才
(株)フェイバリットで、シェフパティシエとして、ケータリング・テイクアウトのスイーツを手がける
36才 スウィーツプロデューサーとして「ドゥー」を立ち上げ独立
働いている職人の方々を通じて仕事の様子を実際見て、「大変な仕事なんだな。」と感じましたが、お菓子に囲まれながらのアルバイトはとても興味深く、「やっぱりお菓子の道に進みたい。」と改めて決心ました。

しかし、今度は父親に反対されて説得に1年半もかかりました。私には普通に就職して結婚して幸せになって欲しいと思っていたからだと思います。 でも、私はお菓子の仕事をしたい!と決心していたので、もう最後には泣き落としに近いくらいの勢いでどうにか説得をしました。
朝一番に注文のフルーツケーキ仕込みをオーブンに入れる。▲
その後、東京製菓専門学校に入学し、2年間洋菓子についての勉強をしました。学生時代には、ケーキ屋のガイド本を片手にとにかくいろんなケーキ屋を食べ歩きました。有名店と言われるお店にはほとんど行ったと思います。

そんな中で、特に印象に強く残ったのが、オーボンヴュータン、クレモンフェランの2店でした。しかしどちらのお店にも「女性は体力的に厳しいから。」という理由で断られました。
▲フルーツケーキを焼いている間、試作をする。乳製品を使用したお菓子の製作を依頼され、まず味の分かりやすいアングレーズソースを仕込むことにした。
そのため、いろんなお店を探しましたが、学校に求人が来ていて、実際食べておいしかったお店「ピュイ・ダムール」に就職しました。

ピュイ・ダムールでは、ケーキだけではなく焼き菓子、パン、ショコラ等幅広く学ぶことができました。やはり、実際の現場での仕事は大変な事もあったし、認めてもらうまでには時間もかかりましたが、自分のやりたい仕事をしているので充実していました。

ここで働いている間にも、何度かクレモンフェランに行っては、働きたいという意志を伝えていましたが、やはり断られ続けていました。しかし、ピュイ・ダムールで3年間修行した後再度お願いしたところ、どうにか雇ってもらうことになりました。

クレモンフェランでは、本当に一から手作りのものが多く、フォンダンのような普通なら既製品を使う副素材等も作っていました。そのため、朝早くから夜遅くまで仕事というのが当たり前でした。
焼き上がったケーキに風味をつけるためにお酒をアンビベ(お酒やシロップをしみこませること)する▲

でも、自分がずっと入りたいと思っていたお店で働いていることがとても嬉しくて、「夢のようだなぁ。」と涙が出てきそうになったこともありましたね。 クレモンフェランでは3年ほど修行しましたが、次第にレストランで働きたいと思うようになりました。

ちょうどクレモンフェランを辞める頃に、タイユバン・ロブション(フレンチレストラン。)がオープンする時期で、パティシエとしてお誘いを受けました。そのためオープニングスタッフとして働くことに決めました。

タイユバン・ロブションでは、テイクアウトとレストランのデセールを作っていました。とにかく高級フレンチレストランということで世間から注目を浴びていましたし、オープニングスタッフということで体制が整うまでとても大変でしたが、仕事のやり方や仕事の流れについては得るものが多かったですね。

▲焼き菓子や記念日のケーキの注文を受けることが多く、この日はお客様から「おつかいものに。」とフルーツケーキの注文を受けた。
蒔絵(まきえ)…日本独自の工芸技術。漆を接着剤の代わりとして、金や銀などの金属粉や 螺鈿(貝の裏のきらきら光る部分)や卵殻(鶏、ウズラの卵の殻)を 接着させて、文様を表していく技法

その後、ザ・ジョージアンクラブ(フレンチレストラン)のオープンニングの製菓長としてお誘いを受けました。このことは、私にとって大きな挑戦でした。
その時の私は27歳。「そんなに経験があるわけでもないのに、こんな素敵なレストランのお菓子を作れるのかな?しかも、製菓長…。」大きな不安もありましたが、スタッフみんなで盛り上げていこう、作り上げていこうと言う環境があったのがよかったですね。

その時は、まだ自分がどんなデセールを作りたいのか?ということさえはっきりと分からない時期でした。とにかくに毎日が勉強でした。 仕事以外でも様々なレストランを食べ歩いたり、夏休みを利用して、ジョージアンスタイルの発祥の地だというイギリス、そしてフランスをまわりました。フランスでは、3つ星レストランを食べ歩きました。そこでは、レストランを構成する建物、料理、そしてそこで働くサービスマンの動きひとつとっても歴史を感じる素晴らしいものだと思いました。

自分から何かを探すということでは、食べ歩き意外にも「素材探し」もよくやりましたね。ザ・ジョージアンクラブには、特別な日のお祝いでお食事にいらっしゃるお客様が多いです。ですから、普段はなかなか出会えないような素材を探しては、ここでしか食べられないような特徴のあるデセールを作ることもよくありました。
4年ほど製菓長を務め、顧客も定着して基盤が出来てきた頃、30歳を迎えました。今までお菓子作り、皿盛りのデセールを作ってきましたが、今後もレストランでやっていきたいと思っていたので、パン作りについて再度勉強したいと思いました。
そのため、腰を据えてじっくりというわけではありませんでしたが、パン屋で研修をし、パン作りの基本を勉強しました。
その後、いろんなレストラン等のオープニングの手伝いをしたり、クレッセント(フレンチレストラン)で製菓長として働きました。それまでレストランでの仕事をしばらく続けてきましたが、次第にケータリングに興味を持つようになりました。

ケータリングではイベントごとに予算もテーマも違うので、その時その時にあったお菓子を作り上げるということに魅力を感じていました。そのため、「フェイバリット」に入社し、ケータリング部門で様々なパーティーやイベントへのプティガトーや大型のアントルメなどを作っていました。お客様が喜んでもらえるようテーマに合わせたお菓子を作るのは楽しかったですね。
当初はケータリングのみを考えていたのですが、フェイバリットがレストラン「エスケープ」とテイクアウトのパティスリー「エモーションズ」を立ち上げたこともあり、両方のシェフパティシエになりました。
▲クリスマスケーキに使うペーストについて香料メーカーの営業マンと打ち合わせ
7〜8名のスタッフと共に製造をしていましたが、やはり大量注文やイベントがあるととても忙しく全てのスタッフに目を配ることも難しくなり、打ち合わせや事務作業等シェフとしての業務も多く、実際お菓子作りに関われるのはほんの一部だけになってきました。
そんな状態がしばらく続いて、次第に「自分のやりたい方向性と違うな。」と違和感を感じていきました。

そして、私は原点に戻ろうと決心しました。
「お客様ときちんと向き合いながら、100%責任を持って最初から最後まで自分の手で納得できるお菓子を作りたい。」これが私のお菓子作りの原点です。そのため4年半所属したフェイバリットを辞めた後スウィーツプロデューサーとして独立しました。
様々の業者さんとの打ち合わせは、商品以外に業界の情報交換をする貴重な機会だ。▲


現在は、受注生産という形でお菓子の製作をしています。今まで働いていたレストラン時代のお客様が、記念日やプレゼントとして焼き菓子やデコレーションケーキを注文して下さることが多いです。

それから不定期ですが、百貨店に期間限定で出店することもあります。ただ、基本的に1人で作っているので大量の注文は受けられません。出来る範囲で、最初から最後まで自分の手で作り上げていこうと思っています。
また、イベント等でお菓子やパンのレシピを考案して提案する事や、プロ向けの講習会をすることもあります。

▲型抜きのショコラを仕込む。チョコレートは温度変化に敏感なので作業の段取りが重要。
その他に、お菓子の素材を扱うメーカーさんから、その素材を活かしたお菓子作りといった制作の依頼を受けることもあります。

それから、合同酒精(酒類の製造販売等の事業を行っている会社)の商品開発室の技術指導顧問として、定期的に研究員や営業部の方に対して技術指導を行っています。お酒を効果的に使用したレシピの開発・提案や、お菓子作りの基本的な技術の指導をしています。


起床 6:30 
厨房に到着(新宿) 8:00
注文の焼き菓子仕込み 8:15〜10:30
試作 10:30〜11:00
打ち合わせ

11:00〜12:00

移動 12:00〜13:00
合同酒精での技術指導 13:00〜17:00
移動 18:00〜19:00
打ち合わせ 19:00〜21:00
▲取材日のスケジュール。スケジュールはかなり変動的。
▲合同酒精の「CRAM studio d’oenon(クラム ステュディオ ドゥ オエノン)」。研究開発、技術指導、セミナーを行う施設で充実した設備が整う。


やはり一番の喜びは、お客様が喜んでくれることですね。

私がテイクアウト中心のパティスリーからレストランに移ったのは、一人一人のお客様に合わせたお菓子を作れるから。というのも大きな理由でした。レストランでは、お客様の好みや年齢などにあわせてデセールを考えたり、細かい微調整をしていました。

それぞれのお客様のために作ったお菓子に対して、お客様が喜んでくれたり、感動してくれることは大きな喜びです。
お客様の笑顔に出会えると、それまでの疲れだとか苦労は一気に忘れてしまいますね。

▲合同酒精の洋菓子用の「ジン」を使用した爽やかなタイプのボンボンショコラ。2種類の方法で仕上げる。
それから、お菓子を作る際に、イメージしていた以上のお菓子が出来たときも嬉しいですね。お客様に喜んでもらうだけではなく、自分自身も仕事の中で喜びや楽しみを見つけだすことも大切なことだと思います。

そして、独立した今はお菓子作りを教える仕事もしていますが、自分が教えた事が伝わって上達していく姿がみれるのも嬉しいことです。
私のやり方は、たくさんある方法のほんの一部であって絶対ではないのですが、ひとつのやり方として覚えてもらいたいなと思っています。



将来テイクアウトの形式のお店をする予定はありませんが、 何らかの形でお店をやる可能性はあるかもしれないですね。

現在は、独立して約1年がたち事業として少しずつ歩みだしてきたばかりです。独立してからは、私は何ができるだろうか?を模索しながらやってきました。

これからは、今やっていることを更にしっかりと土台を固めて少しずつ展開していきたいと思っています。

▲この日はそれぞれが異なるタイプのショコラを仕込む日。1人で全員がきちんと仕込めるよう全体を見ながらタイミングをみつつ個々に指導する。


私はよく若い子に「ケーキ屋さんで働きたいんですけど…。」と相談をされることがあります。よく聞いてみると、「どこでもいいから働きたいんです。」と言うのですが、どこでもいいというくらいの気持ならやめた方がいいと思います。とりあえず働けたとしても長く続かないと思います。

やはり体力的にも精神的にも大変な仕事ですので、「そのお店が好き。」、「そこのお菓子が好き。」等の気持がないと続けていくことは難しい世界です。ただ単に「ケーキが作りたいから、どこでもいいから働きたい。」という中途半端な気持ではお店にとっても迷惑になるのでやめた方がいいと思います。

ケーキ屋さんといっても様々なタイプのお店があるので、その中から自分が好きだというお店やお菓子を見つけだすことが大切です。いろんなお店やお菓子を見て、ある程度自分の将来像や方向性を決めてから就職活動をした方が良いと思います。

菓子業界はまだ女性は軽視されがちな業界ですが、きちんと仕事をしていけば、時間はかかるかもしれませんが男女関係なく認めてもらえるようになりますので、頑張って欲しいと思います。



 

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